2000年3月16日発売のBISES(ビズ)NO.5 春号の巻頭特集は「日本のバラの父・鈴木省三に捧ぐ 薔薇12章」です。バラ界で彼の名を知らない人はいない超有名人です。それでも育種家 鈴木省三の名は海外でのほうがもっと高いのだそうです。特集を組んで最も感動的であったことは、モダンローズのブリーダーとして知られる鈴木氏が心底オールドローズを愛していらしたことでした。バラという花を分けへだてなく深く愛された人生だったことは、専門化の進むバラ界において特筆すべきことと思います。BISESとバラの関係はとてもとても濃く、強く、今年鈴木氏の特集を組んだのも、バラとの長いおつきあいから、何か特別なインスピレーションが働いたのでは? と思うくらいです。特集編集進行中の1月20日、鈴木氏の訃報に接しました。
バラばかりが花というわけでもあるまいに−−とは、ちょっと意地悪なBISES評です。でも、そう言われてもしょうがないかもしれません。何といっても39冊+5冊の中に、バラ特集を5回もやっているのです。それもかなりオールドローズに傾斜したお話ばかり。ちなみにちょっと年代とタイトルをあげてみましょう。
●1993年発売 夏号 「うるわしの薔薇は花ひらく」
●1995年発売 春号 「バラの園を夢見て−オールドローズとつるばらの庭づくり」
●1996年発売 春号 「 豊かなりオールドローズ−遠き日々の香り馥郁とよみがえる」
●1998年発売 春号 「花園のバラたち−つるバラの表情」
そして今号(3月16日発売・No.5 春号プレジデント社刊)が「日本のバラの父・鈴木省三に捧ぐ 薔薇12章」というわけです。
*古い本のバックナンバーは残っていないと思うので、図書館で見てください。(その時、No.5(春号)があるかどうか、是非図書館の人に聞いてください。無かったら置いてください!! ってお願いしてね。)
タイトルからもご想像がつくように、バラに関してはBISESの視点はとってもクラッシックでロマンチックです。編集スタッフにバラマニアがいるわけでもないのに、五感にうったえる庭の魅力を語り始めると、姿、形、香り、歴史、物語性など、あらゆる美点を備えて、バラは時空を越えて輝きを放つ主役になってしまうから不思議です。
─── バラの贈り物
私は香りのあるバラが好きです。昨年の12月、あるバラ園から大きな箱でバラが贈られてきました。小さなカードに「今年最後のバラです。これを切って春までバラ園はお休みです」とありました。比較的長めに切ることのできたバラと、短い短いバラが2束に分けられて。どちらも豊かな香りを放って。花びらが幾重にも重なったバラは、とうとう開ききる力がなかった。一輪ずつ色も姿も違う路地もののバラたち。ほんの数日の華やぎだったけれど、いとしさがつのりました。
─── ブームになったオールドローズ
さて、少し、オールドローズの話をしましょう。1995年にまとめたBISESのバラ特集が、実は大変な話題になりました。本の発売日まで、自分達が作ったページにどんな意味があるのかなど、あまり事情がわかってはいませんでした。
特集内容は、読者の主婦が無農薬で、オールドローズを育てている。おまけに、そうしたバラでエクステリアを飾ったきれいな通りまである−−というものでした。
これを翻訳すると、現代バラの全盛だった日本で、素人が、消毒もしないで、一般市場に苗などほとんど出ていない、実に美しいオールドローズの庭を作っている。さらには、外国の街並みのように花におおわれた美しい生け垣やアーチ、壁面が連なる通りまでできている!! ということです。
その年は誌面でご紹介したバラ苗屋さんに注文が殺到、注文には応じきれず、多くの読者の皆様にご迷惑をおかけすることになりました。どうやら、このオールドローズ狂騒曲は日本の園芸界にっとってはあまり前例のない出来事であったようです。
でも、日本ってすごい国です。というか、日本の園芸界の底力はまさに恐るべしです。翌年からは見事に多種類のオールドローズの苗が、一般の流通に乗り始めたのです。以後、日本のバラの世界にはオールドローズの居場所がしっかりと確保されました。
ちなみに、この時の読者の主婦とは梶みゆきさんです。彼女からの編集部に届いた1通の手紙が、日本にオールドローズ・ブームを引きおこすきっかけになったといっても過言ではありません。その手紙には「・・・10年の試行錯誤の末、ここ3年間、毎年うちのバラは無農薬で美しく咲いております。私のやり方で一応成功したと申し上げてよいかと思います」という内容であったと記憶しています。
この時、バラの街並み作りの指導にもあたった方がバラ園を営む村田晴夫さんでした。梶さんのご紹介でその時の特集に登場していただきました。
ちなみに『オールドローズ』とは、お花屋さんで売っている花茎のしっかりと強い直立のバラではなく、アーチや垣根にからみ、壁をつたい、しなだれて咲く、花びらのたくさん重なった品種をさします。泰西の名画などに描かれるバラといえばお分かりになりますか。ほとんどが一期咲きです。オールドローズにはもちろん一重のバラもあります。現代バラにもつる性のものがあります。このあたりが、説明の難しいところです。ちなみにビズでは、お花屋さんのバラともうひとつのジャンルを「ガーデンローズ」と呼んで区別したりもします。
第2話 「バラの世界は大騒動 」
2000年03月14日