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荻巣樹徳さんが植物界の偉人として歴史に名を刻む

2018年01月16日

荻巣樹徳(おぎすみきのり)さんは、これまで、BISESにも度々ご登場くださったナチュラリスト(植物学者)です。2017年12月、荻巣さんは、中国からアルマン・ダヴィッド神父やアーネスト・ヘンリー・ウィルソンと並び、「四川植物界名人」という称号を贈られました。詳しくは受賞理由が書かれた「歴史的快挙!〜」をどうぞ。

BISESのバックナンバー、2001年10月号(秋)No.14の97頁〜には、「伝統園芸植物と文化」について語ったインタビュー記事が掲載されていますので、そちらもぜひご覧ください。

歴史的快挙! 荻巣樹徳さん殿堂入り−四川省植物研究の著名人九傑に選ばれる−

2017年12月16日、中国四川省の成都市植物園に植物科普館が開設され、それを記念して、植物の宝庫といわれる四川省の植物研究で多大な功績のあった9人が「四川植物界名人」(Famous People in the Plant Kingdom related to Sichuan)という栄えある称号を贈られて、殿堂入りした。そのうちの一人が荻巣樹徳さんで、殿堂入りした数少ない外国人の中で唯一の日本人。

荻巣さんを紹介する館内のパネルには、1982–83年、現代中国植物分類学のパイオニアであった方文培四川大学教授に師事し、以来1つの新属と60種以上の新種を発見(うち26種は四川省の植物とあり)、また6種の「幻の植物」[コウシンバラの野生種など、新種発見後その存在が長く再確認されなかったもの]を再発見し、『峨眉山植物』および『峨眉山植物名録』の執筆に関与し、著書『幻の植物を追って』は世界的な反響を呼んだと記されている。
9人のうち6人は、故方文培四川大学教授(Fang Wen-pei、1899–1983;特に中国産ツツジ科やカエデ属植物分類の権威、教育者として五千人の植物学・林学の学生を指導、『峨眉植物図誌』、『四川植物志』他を著す)を筆頭とする中国人で、3人が、十九世紀後半に活躍したフランスのアルマン・ダヴィド神父(Jean Pierre Armand David、1826–1900)、二十世紀前半に活躍した英国のナチュラリストで植物探険家のアーネスト・ヘンリー・ウィルソン(Ernest Henry Wilson、1876–1930)、そして二十世紀後半を代表する四川植物界名人として文句なく選ばれた植物探険家の荻巣樹徳さん(1951年愛知県生れで9人中の存命最年少;四川大学名誉研究学者)である。

荻巣さんは、四川植物界で「ウォーキング ディクショナリ」(四川省の植物をほぼ知り尽くした「歩く植物辞書」)と呼ぶ人もいるほど同省の植物に詳しい。四十年前中国の開放政策を機に外国人として初めて奥地に足を踏み入れ、野外調査の移動距離は現在まで40万キロ以上、四川省を中心とする中国西南部に限れば20万キロを超え、その踏査距離は中国国内でも氏の右に出る研究者は少なく、外国人ではまずいない。
外国人として選ばれたダヴィド神父やウィルソンは、中国の動植物を世界に科学的に紹介した斯界の著名人。その彼らに肩を並べて選ばれたということは、まさに歴史的快挙である。ちなみにダヴィド神父はハンカチノキを見出したことで知られるが、ジャイアントパンダや金糸猴(golden monkey)の紹介者としても有名。ウィルソンは「Chinese Wilson」の渾名が物語ったように、中国植物の紹介者として他の追随を許さぬ植物探険界の巨人だった。

荻巣さんは一方で、知る人ぞ知る、絶滅の危機に瀕している日本の伝統園藝植物の保存継承に心血を注いでいる人物である。世界への植物学的貢献もさることながら、伝統園藝植物文化の守り手としての活動も、欧米をはじめとする諸外国で高く評価されている。

執筆者プロフィール

ガーデニング誌『BISES』の元編集長。創刊から休刊までの146冊、25年間務めました。1997年流行語大賞トップ10に選ばれた「ガーデニング」は、私が全国に広めた言葉です。これはGARDENINGをカタカナにしたもので、造語ではありません。今では日本語として立派に定着しましたね。