第27話「香り」

2007年03月16日

最近、毎週末、2本くらいのペースで映画や舞台を観ています。監督さんたちの身の内に沸きあがる創らないではいられないという衝動は、職種が変わっても相通じるものがあっておもしろく、けっこう良い刺激になっているのです。

封切られたばかりの「パフューム」を観てきました。原作はもう10年以上前にベストセラーとなった「香水ーある人殺しの物語」(池内紀氏翻訳)。ちょうどあの頃、BISES(1996年)でも映画の舞台となったプロヴァンスの圧倒的なラベンダー畑を特集しました。ステファン・リップ氏の写真7枚のみで構成した紫色の7見開きに続けて、”嗅覚の扉をあけてー月光の密造”というタイトルで、詩人ボードレールなどの話を展開しました。でも、雑誌であろうと、映画であろうと、小説であろうと、香りを表現することはある意味不可能です。それでも、チャレンジしたいのですね。香りは創作意欲をくすぐるあやしいものなのです。「パフューム」の映画監督は、クライマックスの処刑場の大群衆シーンに賭けたのでしょうか。見終わって、私はこの部分のメイキングの裏側を知りたくて、思わずパンフレットを買ってしまいましたよ。

今日、3月16日はBISES春号(47号)の発売日です。クレマチス、アイリスの特集と共に、今号のバラは「オールドローズの救世主」とよばれる故グラハム・S・トーマス氏を主役にしています。オールドローズの馥郁たる香りに魅せられた在りし日の彼をどの様な形でご紹介できるのか。編集部はたった1枚のプロフィール写真を求めて相当なエネルギーを使いました。そして、ついに見つけたその写真はヘーゼル・ル・ルジェテルさんという女性が撮影した、エレガントなバラ園の中のトーマス氏でした。ヘーゼルさん自身もオールドローズの専門家で、彼女の名はバラの名前にもなっているそうです。トーマス氏生涯の傑作とされる名園、モチスフォント・アビーで写された貴重なプロフィールは、バラを愛する人すべての五感にうったえる力を備えていると感じました。これも BISESのこだわりです。ご覧いただけるとうれしいです。

執筆者プロフィール

ガーデニング誌『BISES』の元編集長。創刊から休刊までの146冊、25年間務めました。1997年流行語大賞トップ10に選ばれた「ガーデニング」は、私が全国に広めた言葉です。これはGARDENINGをカタカナにしたもので、造語ではありません。今では日本語として立派に定着しましたね。