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新潟県見附市を潤した 「みつけイングリッシュガーデン」成功の理由

2018年01月04日

かつて隆盛したニット産業が一時期の勢いを失い、産業構造の変革を目指していた見附市。新潟県レベルでこのあたりを対象にした産業団地構想が生まれたとき,人口4万人の小さな見附市は、街の中心に美しいイングリッシュガーデンをつくるという、ユニークなアイデアを実施した。今では、市内外から毎年14万人が訪ずれる人気スポットになり、市の活性化につながっている。
これからの時代を豊かに生きようとする多くの人々に、見附市の話は希望の持てるヒントになるに違いない。

BISESは2015年の春,95号に「みつけイングリシュガーデン」を特集で掲載し、2017年10月に再度取材を重ね、市長・久住時男さんへのインタビューも行った。
  • 撮影:竹田正道

    新潟県見附市は人口4万人。上越新幹線・長岡駅からタクシーで20分程。北陸自動車道・中之島見附ICから車で3分。ガーデンの広さは2.2haで、東京ドームのおよそ半分の広さ(約6,600坪)である。

    市長:久住時男 ガーデンデザイン、制作&スタッフ指導:ケイ山田

  • 撮影:竹田正道

    池に面して建つしゃれた東屋。開園時から設置されていて、イベント、ガーデニング教室、雨の日の作業、コミュニケーションの場などに活用されている。ガーデンの日々の手入れ、植栽管理などは、地元ボランティアの“ナチュラルガーデンクラブ“メンバー120名のうちの40名程が担っている。

  • 撮影:竹田正道

    この庭に接して建つ「イングリッシュガーデンホテル レアント」には結婚式場も完備されている。ガーデンの繊細な植栽は花嫁の記念写真撮影にも大評判だ。客室数57が満室になる日も多く、見附市の懸命な誘致努力が実った。

  • 左のポプラ並木の裏に広大な産業団地が広がっていて、すでに50社を超える企業が進出し、工場は静かに稼働している。旗や看板は一切出さず,スッキリとした景観である。目標の企業誘致数を100%達成し、市の税収基盤は安定、地元民の雇用にも貢献している。産業団地の名は「見附テクノ・ガーデンシティ」と、しゃれたネーミングだ。ささいなことかもしれないけれど、誘致にプラスしたかもしれない。正面奥が欧風の外観を持つホテルである。(写真は10月1日夕刻)



  • 市の中心に見事なイングリッシュガーデンが出来たことで、明らかに市民生活に変化が生まれた。地元の人たちの散歩の目的地がこの花咲く美しいガーデンへ、となったのである。さらに、この庭を手入れし,育成しているのが,地元の花好きの人たちなのだから,作業する人に「今日は◯◯の花がきれいですね」などと気軽に話しかけることもできる。市はタイミングを捉えて、“歩こう運動”を展開。ガーデンまで遠い人たちには、市内循環バスも走らせるという念の入れようである。近隣のケアホーム等から車椅子で遊びにくる人たちも多い。こうした歩いて健康になるまちづくりを進める中で、健康運動教室参加者の高齢者の年間医療費は一人当たり10万円も下がったのだった。

  • アイデアマンの市長、久住時男さんと、ガーデンデザイナーのケイ山田さんは,
    共にイングリッシュガーデン・プロジェクトの構想を練った。勝因は何といっても,“ナチュラルガーデンクラブ”のメンバー育成を、庭オープンの2年も前からスタートさせたことであろう。ガーデンボランティアとして庭の維持管理、手入れを愛情深く行う見附市の誇るガーデニング技術者集団である。ガーデンは1にも2にも,人の手、人の目、である。有名なガーデンデザイナーのケイ山田さんが心血注いで指導してくれて、その結果,人に誇れるうっとりするような世界が自分たちの手で育っていくのだから,モチベーションは上がる訳だ。

    2017年、このガーデンは実りの時を迎えた。開園から8年、来場者は100万人を突破した。10月26日には市のまちづくりが評価され、第5回プラチナ大賞で大賞・総務大臣賞を受けた。

    ケイ山田さんは英国庭園(蓼科高原 バラクラ イングリッシュガーデン)を日本で最初に作った人で,日本のガーデン・ガーデニング界を27年も牽引してきた。一方、久住時男さんは商社マン時代が長く,世界を舞台に仕事をこなしてきた。その中で、欧米の人たちの豊かなライフスタイルに仰天するほどの体験を重ねたという。例えば,ウィークデイは仕事の指導を受けていた現地スタッフが,週末はヨットのクルージングや自宅のきれいな広い芝生で行うバーベキューに招待してくれたそうだ。仕事仕事の日本人とは何と生活の捉え方が違うのだろうと感じたのである。見附市民のくらし改革は市長の長年の思いと重なって,少しずつ実現へと向かっているように見える。
  • ナチュラルガーデンクラブの皆さん。120名の登録者のうち40名がこの庭作りに携わっている。「自分たちの街に誇れる場所があって嬉しい」と笑顔がこぼれる。最近新調した揃いのエプロンはダークなオリーブグリーン。「これだけのガーデナーを揃えている庭は日本ではまれだと思います」とケイ山田さん。「あの方々はどんどんきれいに,オシャレになっていっているみたいです」とは,市の若い職員さんの弁。

  • 秋の園芸教室。この日はハロウィーンのカボチャと秋色の寄せ植えのレクチャー。天気がよかったので,東屋から外に出て,植物の選び方などを覚えてたのしそう。

  • 撮影:竹田正道

    ガーデンには2つの温室があり,そこではボランティアさんたちがたくさんの花苗を作っている。そうして出来た苗は,市内の学校や商店街に配られ市の美観に貢献している。アーケードを飾るハンギングバスケットは,商店街ににぎわいをもたらす。この市では、小さな子どもたちも植物に触れていて、学校同士の植栽のコンテストが毎年行われている。

作り始めと数年後、植物が育った景観
Before と After
この土地は西側に新幹線の高架が走り,その辺り一帯は湿地だった。
工場跡地でもあり,汚い用水路が淀んでいた。
泥地の中に白鷺が2羽いたそうだ。
このプロジェクトの発端は、新潟県がこの見附市を含む県内3カ所に産業団地の誘致計画を打ち出したことから始まった。当時ここには小さな公園があった。
頭上に豊かな緑を見せるフジ、ウィステリア フロリバンダ。白バラはマクミランナース、その足元には宿根草のアルケミラモリス。手前のピンクバラは、ルイーズオディエ。
旺盛にツルを伸ばすピンクのバラは、ブラッシュランブラー。右手前の白花は、バイカウツギ ベルエトワール。
がっちりと作られたアーチの連なり。赤いバラ、チェビーチェイスが良く育ち満開に咲くと、ご覧のような華やかさに変わる。
花の効果抜群のやさしいアーチ。ボランティアさんのアイデアで両脇にコンテナを置いたら素敵なアクセントになった。淡いピンクのバラの名は、ポールズヒマラヤンムスク。
遠くでホテルの建設が始まる。このだだっ広い平面が,豊かな植栽で美しい緑の濃淡を見せるガーデンへと変わる。

執筆者プロフィール

ガーデニング誌『BISES』の元編集長。創刊から休刊までの146冊、25年間務めました。1997年流行語大賞トップ10に選ばれた「ガーデニング」は、私が全国に広めた言葉です。これはGARDENINGをカタカナにしたもので、造語ではありません。今では日本語として立派に定着しましたね。